1.AI等のテクノロジーの進展がもたらす社会課題
AI(人工知能)による機械学習に関する技術の発展より、認識・意思決定・応答のプロセスを通じた自動化の精度が飛躍的に向上しています。その結果、AIをはじめとする最新テクノロジーが様々な企業活動において利用され始めています。特に、あらゆる物をIoTデバイスを通じてネットワークにつなぎ、大量のデータ(ビッグデータ)を収集し、これをAIが解析することにより、様々な社会課題を解決し、新しい社会価値を創出することが、「Society 5.0」の実現に向けて期待されています 。また、現在、コロナウイルス感染拡大の状況下において社会的距離の確保が要請される中で、自動化のためのテクノロジーの導入はより一層進展していくことが予測されます。 AIなど最新テクノロジーの普及は、様々な社会的な問題を生じさせることも指摘されてきます。例えば、①AIのアルゴリズム(手順)のバイアスが差別を助長する問題、②AIによる自動化が労働者の働き方を大きく変える問題、③AIを活用したデータ処理が人のプライバシーを侵害する問題、④AIが生成するフェイクニュースが拡散される問題などが挙げられています。
AI等を開発・提供する企業だけではなく、これを利用するあらゆる企業にとって、その対応が求められています。
2.法の空白域に対応する法務の役割の重要性 AI等のテクノロジーは急速に進化しているがゆえに、これに対応する法制度の整備が容易には追い付かない状況にあります。このような法の空白域の存在は、企業に不確実性を生じさせており、予期せぬ法的制裁、経済的損害、レピュテーション毀損などをもたらす危険性があります。 企業が、AI等に関するリスクに対応しつつ、積極的・持続的にテクノロジーを活用した事業を展開するためには、狭義の意味での法令遵守だけでは十分ではなく、これを超えた対応を行うことが不可欠です。企業の法務部門や企業をサポートする弁護士にも、企業が、健全なリスク管理を行うと共に、テクノロジーを活用した新しい事業(価値)を創造していくことに関し積極的に支援する機能を果たすことが期待されているといえます。
3.「ビジネスと人権」アプローチの有用性
AI等のテクノロジーが生じさせる社会課題に関しては、抽象的に倫理上の課題として議論するだけではなく、いかに人権に影響を与える可能性があり、これにどのように対処すべきかという「ビジネスと人権」の視点から検討することで、企業の行動基準や手続を具体化することが可能となります。
ビジネスロー・ジャーナル2020年8月号に掲載された拙稿「AI等のテクノロジーが及ぼす人権への影響と法務対応」では、AI等のテクノロジーがもたらす人権への具体的な影響やルール形成の動向について、諸外国の事例や議論を参照しつつ、新型コロナウイルス感染拡大下で顕在化している影響も含め解説すると共に、これらの課題への対処方法について論述しています。
<目次>
Ⅰ テクノロジーの進展と人権侵害への懸念
Ⅱ AI等が人権に与える影響とルール形成の動向
1. AIのアルゴリズムバイアスによる差別の助長
2. AIによる自動化の労働者の働き方への影響
3. AIを活用したデータ処理のプライバシーに対する影響
4. フェイクニュースによる誤情報の拡散を通じた「知る権利」の侵害
5. 各国におけるAIと倫理・人権に関する原則の採択
Ⅲ AI等の人権への影響に対処する際の留意点
1. 人権方針の策定
2. 人権への負の影響評価と人権DDの実施
3. 教育・研修及び社内コミュニケーションの重要性
4. 苦情処理制度の整備
<関連業務・研究分野>
先端技術・イノベーション
ビジネスと人権・労働法務
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