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経済制裁規制の域外適用にいかに対応できるか

最終更新: 3月29日


制裁金9100億円:BNPパリバ事件の衝撃

 2014年6月、仏系金融機関BNPパリバは、米国OFAC規制に違反し、経済制裁の対象国などと取引を行ったとして摘発され、89億ドル(当時約9100億円相当)という巨額の制裁金の支払に応じざるを得なくなった。  米国は、企業・金融機関等に対し、イラン・キューバ・シリア・北朝鮮・クリミアなどの包括的制裁対象国や制裁リストで個別に指定された制裁対象者との取引を禁止すると共に、その資産の凍結を要求する、厳格な経済制裁規制を課している。これらの規制は、米国財務省にある海外資産管理局(OFAC: Office of Foreign Assets Control)を規制当局とすることから、OFAC規制と呼ばれている。  BNPパリバ事件で米国当局がOFAC規制違反を認定したのは、フランス・スイスの拠点が実施した取引であり、米国との接点がほとんどなかった。しかし、ドル建取引については、米国金融機関を通じて決済がなされるため、規制が適用される「米国内に存在する資産」であると拡大解釈がなされ、域外適用がなされたものである。同事件は、米国がOFAC規制を極めて積極的に域外適用する姿勢を示したものとして、各国に衝撃を与えた。同事件後も、日本を含む各国の非米系企業・金融機関がOFAC規制の域外適用を受け、制裁金の支払に応じざるを得なくなっている。  以上のように米国OFAC規制の域外適用のリスクが高まっている現在、日本の企業・金融機関も、ドル建取引や米国企業・米国人などが関与する取引など何らかの米国接点がある取引にあたっては、同規制に対応するための経済制裁コンプライアンスが求められている。

リスクベースでのDDの必要性

 企業・金融機関が、米国OFAC規制を遵守するためには、取引関係者が制裁対象者・制裁対象国と関連していないかを確認するデューディリジェンス(DD)を実施する必要がある。 問題は、経済制裁コンプライアンスが求めるDDの範囲は、犯収法などのマネロン対策における顧客確認の範囲と比較して格段に広いことである。OFAC規制では、顧客のみならずあらゆる取引の関係者についてDDが必要となる。また、制裁対象者が50%以上の持分を有する団体についても取引禁止・資産凍結の対象となるという解釈ガイダンスが存在することから、取引関係者の実質的支配者もDDが必要である。さらに、OFAC規制は規制の潜脱行為も禁止していることから、直接の取引相手方のみならず、間接的な取引関係者についてもDDが必要となる場合がある。  以上のような極めて広範な取引関係者について、チェックリスト方式で一様にDDを実施する手法には限界がある。むしろ、リスクの高さに応じてきめ細やかにDDの範囲や方法を決定するというリスクベース方式でのDDが現実的かつ有効である。実際、OFAC規制に関する経済制裁執行ガイドラインもリスクベースのコンプライアンスを要求している。  リスクベースのDDを実施する前提としては、OFACリスクを適切に探知し、評価し、対処するための内部統制システムを整備することが不可欠である。もっとも、チェックリスト方式に慣れ親しんできた日本企業・金融機関が、リスクベース方式のDDやコンプライアンスを直ちに実践するには課題があるのが現状であり、思考の転換と実務上の工夫が求められている。

米国トランプ政権下で急展開する経済制裁  トランプ氏が米国大統領に就任して以降、各国への制裁内容も急展開している。イランは核問題に関する包括的行動計画(JCPOA)に基づき制裁が緩和されていたが、合意破棄を主張するトランプ氏の大統領就任後、制裁強化が進んでいる。キューバも国交正常化にむけての交渉開始後に制裁が緩和されていたが、トランプ政権下で方針転換の兆候が生じている。またロシアは米大統領選への介入、北朝鮮は核ミサイル問題などをふまえた緊張関係の高まりを受けて、制裁がさらに強化されている。

コンプライアンスを競争力に

 以上のように緊迫する国際情勢の下経済制裁が急展開する状況において、多くの新興国・途上国との取引において、企業が制裁対象者等との取引に巻き込まれるリスクが急速に高まっている。とはいえ、企業は、一部の制裁対象国との取引を除き、リスクが高い新興国と全く取引を行わないという選択肢は存在せず、適切なリスクマネジメントが求められている。  経済制裁コンプライアンスの実践は、企業にとっては、コストであると捉えられがちであるが、むしろ持続可能な形で海外ビジネスを行うための競争力の源泉となるものだ。制裁対象者などが取引に関与するリスクを予め探知することで、そのリスクを適切に緩和することができる。リスク緩和の方法は、取引解消のみではなく、リスクの程度によっては暴力団排除条項に類似した表明保証条項を導入することなどにより取引を継続できる場合も多い。また、万一違反取引が発覚しても、適切なコンプライアンスを実施していれば処罰が減免されうることが、経済制裁執行ガイドラインにも明記されている。  日本企業がより積極的にグローバル展開を行うためにも、今、経済制裁をはじめとしたグローバルコンプライアンス力が試されている。

<関連活動>

  • 「トランプ政権下の OFAC 規制執行強化にみる経済制裁規制コンプライアンスの最前線」(ビジネス法務 2019年6月号)

  • 「<Trend Eye>経済制裁規制の域外適用にどう対応するか」(ビジネス法務2016年4月号関東記事)

  • 「FinTech・仮想通貨におけるマネロン・反社リスクの所在ー諸外国の実例や規制動向を踏まえた考察」(旬刊商事法務No.2133 2017年5月5・15日合併号)

  • 「グローバル時代における反社会的勢力対応(上)(下)―グローバル暴力団排除条項の導入に向けて」(NBL991・993号 共著)

  • 「オバマ暴排大統領令と東京都暴排条例―日本の暴排と世界のボーハイのシンクロナイゼーション」(NBL966号 共著)

  • その他関連セミナー・講演・社内研修など多数。


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