<気候変動リスクを見据えた法務対応>
気候変動問題は、近年の世界各地での異常気象・自然災害を通じて、近い未来に差し迫った危機として認識されつつあります。SDGsの目標13も、「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」ことを掲げています。
コロナ危機により一時的に温室効果ガス排出量が減少しているものの、経済活動の本格再開後のプロセスでは排出量が激増することが懸念されています。2020年4月開催の気候変動に関する閣僚級会合でも、経済復興計画がSDGsやパリ協定に沿ったものでなければならないことが確認されました。また、EUは、2020年5月、コロナ危機からの復興計画に関して「グリーン・リカバリー」として環境問題を重視することを明確化しました。
このような中、企業にも、気候変動の緩和・適応のために具体的な対応が対策されており、各国でルール(ソフトローを含む)の形成や裁判・紛争事例が生じています。ESG(環境・社会・ガバナンス)投融資においても、気候変動は最も重要な評価項目の一つに位置付けられており、企業は投資家・銀行の関心に応える観点からも対策が期待されています。
日本国内では地球温暖化対策推進法に基づき、政府が一定の対策は進めているものの、企業に対する法規制は、一部の地方自治体の制度を除き存在していません。しかし、低炭素社会に向けてルールが変わっていく状況をふまえれば、日本企業も、気候変動リスクを見据えた対応を戦略的に検討していくことが重要であり、法務も積極的な役割を果たすことが期待されています。
企業法務専門誌のNBL第1172号(商事法務 2020年6月15日発行)のSDGs特集に掲載された拙稿「もう一つの危機・気候変動のリスクを見据えた法務対応のあり方」は、気候変動をめぐる諸外国のルール形成や裁判内外の紛争の動向を、企業実務への影響も含めて解説した上で、これをふまえた法務対応のあり方を論述しています。
(目次)
Ⅰ はじめに
Ⅱ 気候変動をめぐるルール形成・ 紛争の動向と企業実務への影響
1. パリ協定に基づき設定された温室効果ガス削減目標
2. FSBのTCFD提言書により求められる気候変動関連開示
3. グローバルな企業行動規範の気候 変動問題への適用
4. EU規制の気候変動に対する適用 の明確化
5. カーボンプライシング規制の導入
6. 気候変動をめぐる裁判・紛争事例 の拡大
Ⅲ 気候変動リスクを見据えた 法務対応のあり方
1. 気候変動リスク評価の前提としてのDDの実施の重要性
2. ステークホルダーとの対話の重要性
3. シナリオ分析の有益性
4. 気候変動リスクへの対応及びオポチュニティの実現における留意点
5. その他の留意点
<環境デュー・ディリジェンスの意義と活用方法>
上記の気候変動リスクを見据えた法務対応において重要なのが、企業活動の環境・社会への影響を、サプライチェーン等の取引関係を含めて評価・対応する「環境・人権デュー・ディリジェンス(DD)」です。
ビジネスと人権に関する国連指導原則の承認やOECD多国籍企業行動指針の改訂により、企業には、欧米諸国では、サプライチェーン等を通じた環境・人権DDが法的義務又は開示義務として引き上げられるなどルール化が進みつつあります。このような動向をふまえ、環境省も2020年8月に「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門 ~OECDガイダンスを参考に~」発表しました。
環境専門誌である環境管理2020年5月号(産業環境管理協会発行)の総説(特別寄稿)として掲載された拙稿「環境デュー・ディリジェンスの意義と実践方法――責任ある企業行動及びサプライチェーンに関するルール形成をふまえて」は、上記のような責任ある企業行動及びサプライチェーンに関するルール形成の動向を、特に環境分野におけるDDとの関わりに焦点をあてて整理し、その上で、環境DDのプロセスの実施における留意点を解説しています。
(目次)
1.責任ある企業行動及びサプライチェーンに関するルール形成と環境DD
1.1 指導原則とOECD指針における 環境DDの要請
1.2 サプライチェーン等を通じたDDの要請
1.3 サプライチェーン管理規制の動向と実務影響
1.4 サステナブル投融資と環境DD
1.5 日本国内における動向
2.環境DDのプロセスに関する実務や議論の現状
2.1 環境DDプロセスのステップ
2.2 環境への負の影響の特定における留意点
2.3 環境への負の影響のリスク評価・優先付けにおける留意点
2.4 ステークホルダーとの意義ある対話における留意点
2.5 サプライチェーン等への影響力の行使における留意点
2.6 環境被害に関する苦情処理メカニズム整備に関する留意点
2.7 環境分野の非財務情報開示における留意点
<関連業務・研究分野>
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